光にまぎれた闇の詩は、「ひかりにまぎれたやみのうた」と読むのだ。「やみのし」じゃないんですよー。
因に題名の意味はあ……ありますよ、ちゃんとあるんですけどお。まあまずは呼んでいる人が考えてみてください。ごく簡単な比喩ですから。
早くアレンを登場させたくてうずうずしています。
光にまぎれた闇の詩 003
トマと一緒に列車に飛び乗った後(この乗り方はどうにかならないんだろうか)、ラビはトマに用意してもらっていたコンパートメント一つを占領すると、大きなあくびをした。前の任務から帰ってきて、まだ一度も寝ていない。確か、その前の任務の後もそんなに寝ていないんじゃないか。コムイの人使いの荒さに殆どなれてしまった自分のからだを哀れに思いながら、ラビは小さくため息をついた。単身任務というのは結構淋しいもので、ラビは窓の縁に肘をつきながら、流れて行く外の風景をぼんやりと退屈そうに眺めた。最初は、トマもこの中に入るようにいったけれど、彼はどうやらファインダーの中では真面目な方らしく、頑としてラビの申し出を受けなかった。これは喜ばしい事だ。最近のファインダーはだんだん態度が大きくなってきている徴候があって、コムイが頭を悩ませていた。だから、こういう新人はありがたい。けれど、今のラビとしてはちょっと物足りなかった。
そんなに列車の速度は早くない。容易に流れて行く風景は目で捕らえる事ができる。そんなさまざまな流れて行くものを目で追い掛けては視界から消え、またあらわれては、目で追い掛ける。退屈で退屈でしょうがない。任務についての資料はすべて読んでしまったし、持ってきている本は、前の任務の時にすべてよんでしまった。今じゃただのお荷物だ。あーあ、ちゃんと出してくりゃよかったさ……。横目で自分の隣にある余分な本の入った荷物に目をやり、もう一度ため息をつく。
ちょうど列車は、どこかの町のお粗末なボロい駅に入ったところで、外からは何やら賑やかな音が微かに聞こえた。何だと思って窓を開けてみると、その音は前よりも鮮明に聞こえ、どうやら祭りをしているらしいというのが分かった。遠くの方で、たくさんの人が集まって踊っているのが見える。
「おーい、トマ、お祭りやってるさ。お前も見れば?」
興味を示して中に入ってきてはくれないかと、ラビはドアの外に向かってトマに呼び掛けてみた。新人なら、どこか見知らぬ町の祭りくらいに興味を持ってもよさそうなものだ。期待して返事をまつ。
「結構です。今は仕事中で、私はここで見張りをしなければいけませんから。お誘いありがとうございます、ラビ殿」
ありゃりゃ。ラビは期待外れの答えに少しうなだれた。どうやら何処までもトマは真面目らしい。
気を取り直して、ラビはまた喧噪に耳をすましながら、遠くのお祭りの風景を眺めた。きらびやかな多色の灯りに、鮮やかな色で着飾って踊り狂う人々。その足の間を、祭りでしか食べる事のできない食べ物やお菓子を持って走り回る子供達。皆幸せではち切れそうな表情をしている。駅の様子から分かるように、普段から貧しいこういう町ではこんな祭りは毎日のストレスや、暗い気持ちを吹き飛ばしてくれる貴重な時間だ。その貴重な時間をこの町の人々は目一杯楽しんでいるのだろう。ラビはちょっと羨ましいと思った。
と、その時、ラビの視界に一組のカップルが入った。どうやらちょっと祭りを抜け出して、二人で木陰で休んでいるらしい。もうすぐ夏が近い今の時季は、気温が春の日よりも少し高い。そんな中延々と踊り続ければばてるのもあたりまえか。ラビは、列車がまた走り出すまでの退屈しのぎに、しばらくそれを観察してみる事にした。
男の方は色が黒く、体つきも随分と逞しい。まさに働く男という印象を受ける。女の方は、これまた色が白く華奢で、加えて髪もかなり銀に近いプラチナブロンドだから、全体的に白っぽくて儚い感じがした。まったく正反対の組み合わせだ。二人は何を話しているのか、たまにクスクス笑ってはお互い顔を見合わせて幸せそうに微笑む。手は二人の間でしっかりと繋がれていて、あの様子じゃ、何があっても離れなさそうに見えた。あの二人の周りだけ、少し明るく見えるくらい二人は幸せそうに見えた。……ああいう奴らが伯爵の標的になりやすいんだよな。頭の中にまだ見た事のない強敵がもやもやと霧のように浮かぶ。どんな奴かは知らねえけど、あんなに幸せそうな人の幸せを奪うような真似するんだから、きっとすげえ極悪人面してんだろうな。いったいどんな顔をしているだろうかと、頭の中でオマージュを組み立てはクスクス笑う。少し気分が晴れたところで、やっと列車は動きだした。
——ラビは恋人とかつくろうとか思わないの?
だんだん遠ざかって行く町を見つめていると、リナリーの声が一瞬頭を過った。
——ラビ、あなた本当にそれでいいの?
——このまま恋もしないで死んでいくなんて人生そんよ? 想うくらいいいんじゃないの?
恋。それはブックマンにはまったく不必要なもの。寧ろあっては困る。ラビはブックマンを師にもってからこの方、ずっとそういわれ続けてきた。だから、記録先で誰かに淡い恋心を抱く度に、自分でその事にハッとして、心を抑えてきた。それなのに、今更『恋をしろ』といわれても無理な相談だ。今まで幼心に憧れていた人達の顔が浮かぶ。今ではもう何も感じはしない。これは、自分が抑える事に成功しているのか、それともただ、もう憧れではなくなっているのか。思い返してみると、何故か相手は皆年上の女性ばかりだった。あれ? 俺って年上好きなんだっけ? いや、今までにも引っ掛けた女の子には、年下もいたはずだ。ところが、幼い頃に憧れた人達は皆どちらかというと、あの頃のラビの母親にあたるくらいの年齢——ああ、そうか。ラビは少し愕然とした。今までラビが恋をしたと思っていた人達に、彼はただ離ればなれになってしまった母親を重ねていただけなのだと気がついたからだ。ということは、彼はまだ一度も、恋をした事がないという事になる。今までこっちが進んで引っ掛けた女の子は、ただの暇つぶしだったり、情報あつめの一端だったりした。
情けない。今まで恋をした事がなかったというのに、今まで「恋心」を抑えていたと勘違いしていたのだ。これじゃあ、本当に恋をしてしまった時に本当に抑える事ができるか自信がない。
「なあ、トマ」
「何でしょうか」
「お前、誰か好きになった事ある?」
は、はあ!?
扉の向こうでトマの驚いた声とともに、ばたばたと転ける音が聞こえて、ラビは思わず笑った。
ラビが自分の今までの気持ちに気がつく話。トマをでしゃぱらせてみました。2巻を読んだ時の私のトマの印象っていうのは「(ファインダーとしては)真面目さん」だったので、こういうラビの言葉に対しての態度となりました。早くアレンを登場させたい。ラビばっかりだよ。ラビ好きだけどアレンも同じくらい好きだもんね。うぇーい(ジオライト)。
神田がまだ描写でしか出てきてない。しかもラビにけられて追い掛けてるだけだよ。早く出してあげたいけど、こっちは随分先になるだろうな。だってアレンがまず出てこないと話にならないし。
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